近年、オタク界隈でよく耳にする「モンペ」という言葉。皆さんはこの言葉にどんなイメージを持っていますか。私が思うに、この言葉は単なるスラングとして片付けられない、ファン心理の奥深さを表している言葉です。
本記事では、オタク界における「モンペ」の意味や具体的な行動、そしてその愛情表現に伴う注意点について、ベテランブロガーである私が徹底的に解説します。
「モンペ」の語源|「モンスターペアレント」からの進化

オタク用語としての「モンペ」の起源を理解するには、まず「モンスターペアレント」という言葉の誕生と、それがどのようにオタク文化に取り入れられたかを知る必要があります。私が解説しましょう。
「モンスターペアレント」とは?|社会問題としての認知
「モンスターペアレント」とは、学校や教師に対して理不尽かつ自己中心的な要求をする親を指す、日本で生まれた造語です。教育評論家の向山洋一氏によって命名されたと言われ、2007年頃から広く使われるようになり、同年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされました。
例えば、「自分の子供をお遊戯会の主役にしてほしい」「担任の先生を替えてほしい」といった過度な要求が特徴です。この言葉はテレビドラマの題材になるなど、社会問題として広く認知されました。
オタク界への浸透|「モンペ」という略語の誕生
「モンスターペアレント」という言葉は、その長さから「モンペ」と略されるようになりました。「モンスター」の「モン」と「ペアレント」の「ペ」を組み合わせた形です。
この略語「モンペ」が、教育問題の文脈からオタクやファンのコミュニティへと持ち込まれ、独自の意味合いで使われるようになりました。ジャニーズオタクなどが使う場合と、学校関連で使われる場合とでは、ニュアンスが少し異なります。
オタク界における「モンペ」の定義と行動パターン
オタク界で使われる「モンペ」とは、具体的にどのような特徴や行動を指すのでしょうか。私が長年の経験から分析します。
モンペの核となる特徴|我が子を愛するような献身
オタク文脈における「モンペ」の最も中心的な特徴は、ファンが自身の「推し」(好きなキャラクターやアイドルなど)を、まるで自分の子供のように深く愛し、献身的に応援する点にあります。作品やキャラクターを我が子のように愛するあまり、あるいは推しのアイドルメンバーを我が子のように思う、という表現がぴったりです。
アニメファンやBTS(防弾少年団)のファンの間でも、「推しをわが子のように愛するあまり、目に入れても痛くない」という言葉で表現されるような、深い愛情を注ぐ様子が見られます。この「親心」にも似た感情が、時に過剰なまでの保護欲や期待感を生み出すのです。
モンペの具体的な行動|要求と自虐的ユーモア
「モンペ」の行動には、大きく分けて二つの側面があります。一つは、推しへの愛情ゆえの「要求行動」、もう一つは自身の行動を客観視した「自虐的認識」です。
要求行動|推しへの愛ゆえの過度な期待
一部の「モンペ」ファンは、その強い愛情から、作品の制作者、運営、あるいは原作そのものに対して、時に上から目線で、あるいは過度に批判的な立場で要求を突きつけることがあります。「最終回でのうちの嫁(好きなキャラクター)の扱いなんなの? モンペ化せざるをえない」といった発言や、「推しの出番をもっと増やしてほしい」といった具体的な要求がこれにあたります。
これらの行動は、元の「モンスターペアレント」の「モンスター」的な側面が、形を変えて現れたものと言えます。しかし、その社会的影響は、学校におけるモンスターペアレントほど深刻ではない場合が多いです。あくまで自身の「子供」(推し)が「正しく」扱われること、注目されることを望む気持ちの表れです。
自虐的認識|「親ばか」としての自覚
一方で、「モンペ」という言葉は、自身の過度な溺愛や保護的な性質を自覚しているファンによって、自虐的な意味合いを込めて使われることも非常に多いです。ファン自身がSNSなどで「私は〇〇(推しの名前)のモンペです」と公言する例がよく見られます。
これは、自身が推しを溺愛していることを認識した上で、半ばユーモラスに、あるいは開き直って用いているケースです。「こんなに夢中なのは分かっているけど、好きだから仕方ない」といった感情が込められていることが多いでしょう。この自己認識と自虐的な用法は、オタクによる「モンペ」の用法を、元の否定的な「モンスターペアレント」とは大きく区別する重要なニュアンスです。多くのファンコミュニティにおいて、「モンペ」は攻撃的な「モンスターペアレント」というよりは、むしろ「親ばか」に近い意味合いで捉えられています。
様々なファンダムにおける「モンペ」の現れ方
「モンペ」という言葉やその概念は、特定のファンダムに限定されず、様々なジャンルで見られます。私がいくつかの例を挙げて解説します。
アイドルファンダム(ジャニーズなど)|自担への絶対的忠誠
ジャニーズ事務所所属の男性アイドルファン、通称「ジャニオタ」の間では、「モンペ」という言葉は特有のニュアンスで用いられます。中心となるのは、自身の「自担」(自分が最も応援しているメンバー)に対する猛烈な忠誠心です。「どんなときでも推しを全力で支持します」という姿勢で、その愛情は「息子のように可愛がって愛でるあまり」と表現されます。
この結果、他のメンバーや運営に対して批判的な意見を述べたり、「〇〇くんが1番に決まっている」「〇〇くんがそんなことをするはずがない」といった盲目的な心理状態に陥りがちであると指摘されることもあります。運営側に理不尽な要求をすることは少ないとされますが、一部の熱狂的なファンは「推しの出番を増やしてほしい」といった要求をすることもあります。ファン自身が「私、〇〇モンペだから」と自称する例も一般的です。
アニメ・漫画ファンダム|キャラクター描写への強いこだわり
フィクションのキャラクターに対するファンにおいても、「モンペ」という言葉は適用されます。この文脈では、キャラクターの描写、物語上の展開、原作やメディアミックス作品における扱われ方などに対して、ファンが保護的な態度を示します。「作品やキャラを我が子のように愛するあまり、原作やアニメに対し、あれこれと上から目線で注文をつけてしまうファン」という定義が当てはまります。
例えば、物語の展開やキャラクターデザインの変更、あるいはキャラクターが作中で受ける仕打ちに対して不満を表明し、時には制作者や作品自体に「注文」を付ける形で現れます。「うちの嫁の扱いなんなの?」といったセリフは、まさにその典型です。
K-Popファンダムなど|グローバルなモンペ現象
「モンペ」という用語は、日本のメディアファンダムに限定されるものではありません。K-Popなど他の熱狂的なファンコミュニティでも使用例が見られます。例えば、BTSのファンについても、「BTSの特定のメンバーを好きなモンペは、他のメンバーは眼中になく推しのことを常に考えています」と記述されることがあります。
これは、対象が何であれ、強烈で保護的な献身という中核的なダイナミクスが存在すれば、この用語が適応され、共感を呼ぶことを示しています。根底にある感情は類似していますが、その「親としての懸念」の実際的な現れ方は、その特定のファンダムのエコシステム内で影響を与えたり批判したりできるものに合わせて調整されます。
「モンペ」と類似・関連するファン類型との比較
「モンペ」という言葉をより深く理解するために、類似する、あるいは関連する他のファン類型と比較してみましょう。私がそれぞれの違いを明確にします。
「モンスターペアレント」(元義)との違い|自己認識と対象
「モンペ」の語源である「モンスターペアレント」とオタク界の「モンペ」は、その意味合いが大きく異なります。
側面 | 「モンスターペアレント」(元義) | オタク「モンペ」 |
主な動機 | 子供の(誤って認識された)権利/利益 | 「推し」の(認識された)幸福/成功/適切な描写 |
要求/行動の対象 | 学校/教師 | 制作者/運営/原作/他のファン |
自己認識 | 一般的に低い/皆無 | しばしば高い(自虐的) |
典型的な要求/行動 | 理不尽な教育的/個人的要求(例|主役にしろ、担任を変えろ) | より多くの露出時間、より良い物語展開、批判からの擁護など |
全体的認識 | 極めて否定的 | ニュアンスに富む(愛情深い場合もあれば、問題視される場合もある) |
一般的な用法 | 蔑称 | しばしば自己申告的/仲間内スラング(例|「私は〇〇モンペ」) |
特に大きな違いは自己認識です。学校のモンスターペアレントが自ら「私はモンスターペアレントです」と名乗ることはまずありませんが、オタクは自ら「私はモンペです」と称することがあります。この点からも、オタク「モンペ」が元の社会問題的な呼称とは異なる意味合いで受容されていることがわかります。
「信者」との違い|積極的な介入の有無
ジャニーズファンダムの文脈では、「モンペ」の類義語として「信者」が挙げられることがあります。両者には強烈な献身や揺るぎない支持といった共通点が見られます。「信者」は、より広義には、メディア作品や特定の人物・団体などを「崇め信仰する者」や、「絶対視・神聖視し、それに関するネガティブな事実にすら逃避思考や陰謀論などで擁護する者」を指すことがあります。
「信者」が「推し」や作品に対する深い、ほとんど宗教的な信仰を示唆するのに対し、「モンペ」はその強烈な信念に加えて、積極的で親のような保護的介入や、「推し」の利益のための要求を行う傾向を伴います。受動的に信じる「信者」に対し、「モンペ」は「我が子」のために積極的に環境を形成しようと試みると言えるでしょう。
「厄介オタク」との違い|行動の意図と影響
「モンペ」は、より広範に否定的な意味合いを持つ「厄介オタク」とは区別する必要があります。「厄介オタク」とは、一般的に、ルール違反、不適切な言動、攻撃的なゲートキーピング(排他的行動)などを通じて、他のファン、イベント、あるいは制作者にとって迷惑となる行動をとるファンを指します。
一部の「モンペ」の行動が「厄介」と見なされる可能性はあるものの、全ての「モンペ」が本質的に「厄介オタク」であるわけではなく、その逆もまた然りです。「モンペ」が「親ばか」モードである場合、他のファンからは愛嬌がある、あるいは面白おかしく熱狂的と見なされることもあります。しかし、その「保護的」行動が攻撃的な要求、批判者への嫌がらせ、あるいは絶え間ない不平不満へとエスカレートした場合、彼らは「厄介」の領域へと足を踏み入れることになります。重要な区別はしばしば意図と影響にあり、「モンペ」は(親としての)愛に根差しているのに対し、「厄介」はより自己満足的な破壊行為や他者への否定的な意思の押し付けに関連しています。
「全肯定モンペ」と「貶し愛」|愛情表現のスペクトラム
「モンペ」、特に「全肯定モンペ」(全ての言動を肯定するモンペ)は、ファンが強烈な感情を表現する方法の広範なスペクトラムの中に位置づけられます。これは、愛情表現として批判やからかいを用いる「貶し愛」とは対照的です。
「全肯定モンペ」は、「親としての」愛が「推し」に対するあらゆる欠点や批判の認識を拒絶する形で現れる極端な状態を代表します。これは他のファンからは息苦しい、あるいは非現実的と見なされることがあります。「貶し愛」は、全ての否定的なものから守ろうとする「モンペ」の本能とはほぼ正反対の、からかいや軽い嘲弄を通じて愛情を表現する形態です。これらの概念は、強烈なファンの献身が表現されうる多様な方法を理解するのに役立ちます。
オタク「モンペ」がコミュニティに与える影響と注意点
「モンペ」という存在は、ファンコミュニティに対してどのような影響を与え、またどのような点に注意すべきなのでしょうか。私がその両側面から解説します。
ポジティブな側面|ファン同士の連帯感醸成
「モンペ」という言葉は、ファンが自らをそう認識し、称することが一般的です。この自己ラベリングは、たとえその言葉自体に自虐的な響きがあったとしても、ファン同士の仲間意識や共通理解を育む一因となっています。「私たちは皆、この強烈なファン愛を共有している」という感覚を生み出すのです。
推しへの深い愛情を共有する者同士として、一種の連帯感が生まれることは、ファン活動をより楽しく、豊かなものにするでしょう。
ネガティブな側面と批判|過度な要求と排他性
「モンペ」行動は、しばしば自虐的に語られる一方で、その行き過ぎた側面は批判の対象となります。過度に要求がましい、権利意識が強い、あるいは他のファンや制作者にとって有害な雰囲気を作り出すといった点が指摘されることがあります。
タレントの若槻千夏氏が学校教師に関する発言で「モンペ」と批判された例は、この言葉の否定的な用法が、行動が権利主張が強いと認識されれば、オタク界隈を超えて一般の言説にも及ぶことを示しています。これらの批判は、「モンペ」行動が境界を越えた際に、元の「モンスターペアレント」の含意とより密接に結びつくことを示唆しています。
VTuber炎上事件から学ぶ|「モンペ」呼称のリスク
VTuberグループ「.LIVEアイドル部」の事例は、「モンペ」という言葉がコミュニティに与える影響を考察する上で重要なケーススタディとなります。2019年8月30日、運営関係者とされる「ばあちゃる」氏が、一部のファン(特にコラボ相手などを過度に批判するファン)に対して「モンスターペアレントのようなもの」と発言したことが、大規模な炎上とコミュニティの分断を引き起こしました。
この事件は、「モンペ」というレッテルが権威的人物からファンに向けて用いられた場合の否定的な可能性、ファンコミュニティ内の既存の緊張を煽る力、そしてこの種の言葉が不用意に使われた際のファンと制作者・運営間の言説の現実的な帰結を露呈しました。ファンに自らの行動や忠誠心を問い直させることで(「自らを『モンペ』なのではないかと自省し」)、ファンベースを分断するこの言葉の力を示したのです。
まとめ|「モンペ」と上手に向き合うために
「モンペ」は、問題行動を起こす親を指す言葉から、オタク文化におけるニュアンスに富んだ多面的な用語へと変容を遂げてきました。その中核には、親のような献身、しばしば自虐的な自己認識、そして溺愛から要求行動に至るまでの幅広い行動スペクトラムが存在します。
私が考えるに、「モンペ」という言葉や行動自体が絶対的に良いもの、悪いものというわけではありません。推しへの深い愛情は素晴らしいものですが、その表現方法や他者への配慮を忘れてしまうと、周囲に不快感を与えたり、かえって推しに迷惑をかけてしまったりすることもあります。
ファン活動は、自分自身も周囲も楽しめる形が理想です。「モンペ」的な愛情も、その強大なエネルギーをポジティブな方向へ昇華させ、推しとコミュニティ双方にとってより良い応援の形を見つけていくことが大切です。