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草壁シトヒ
くさかべしとひ
<趣味・得意分野>
アニメ:Netflix, DMM TV, Disney+, アマプラでジャンル問わず視聴。最近は韓流ドラマに帰着。

ゲーム:時間泥棒なRPGが大好物。最新作より、レトロなドット絵に惹かれる懐古厨。

マンガ:ジャンル問わず読みますが、バトル系と感動系が特に好き。泣けるシーンはすぐに語りたくなるタイプ。

二大禁『J禁P禁』の意味とは?旧ジャニーズが遺した肖像権管理の功罪

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私は長年、インターネット上のファンカルチャーとその変遷を見守ってきました。日本のウェブ社会において、実在の人物を題材にした二次創作は極めて特殊な進化を遂げています。

特に「J禁」「P禁」と呼ばれる二つの規範は、単なるルールを超えた「掟」としてコミュニティを支配してきました。本記事では、この二大禁がいかなる歴史的背景から生まれ、現代のSNS社会でどう変容しているのかを徹底的に解説します。

タップできる目次

二大禁「J禁・P禁」の基礎知識と発生の背景

インターネット上の二次創作には、暗黙の了解として守られるべき鉄の掟が存在します。ここでは、その基本となる概念と歴史的背景について解説します。

そもそも「ナマモノ(nmmn)」とは何を指すのか

「ナマモノ」とは、アニメや漫画のキャラクターではなく、実在する人物を題材にした二次創作を指す隠語です。二次元のキャラクターが架空の存在であるのに対し、ナマモノは現実に生きている人間を扱います。

ここには決定的な違いがあります。ナマモノは「著作物」である以前に、一人の人間としての人権や肖像権を持っている点です。

ファンはこのデリケートな性質を理解しています。自分たちの創作活動が、本人や社会に対して不適切な影響を与えるリスクを常に意識しているのです。

「J禁」が生まれた理由|事務所の管理と恐怖

「J禁」とは、旧ジャニーズ事務所(現:SMILE-UP. / STARTO ENTERTAINMENT)所属タレントを対象とした二次創作における禁止ルールです。このルールの根底には、かつての事務所による圧倒的な肖像権管理体制があります。

2000年代から2010年代にかけて、所属タレントの画像はネット上で徹底的に排除されてきました。この厳しい情報統制は、ファンに対して「画像一枚でも法的措置を取られるかもしれない」という強烈な恐怖を植え付けたのです。

つまり「J禁」は単なる禁止事項ではありません。「事務所や一般人の目に触れれば、タレント本人に迷惑がかかる」という、ファン独自の防衛本能から生まれたゾーニング(隔離)の仕組みと言えます。

「P禁」の定義|拡散を防ぐ隠匿の倫理

「P禁」は、J禁以外の実在人物(俳優、バンド、芸人など)を対象としたルールです。この「P」にはいくつかの解釈が存在します。

以下の表に、主な解釈をまとめました。

解釈由来意味
Public公衆・公共公の場に出してはいけない
Privacyプライバシー個人の権利を侵害してはいけない
Pan-pee一般人(パンピー)ファン以外の一般人の目に触れさせてはいけない

特にロックバンドや若手俳優は、本人自身がネットを活用しておりファンとの距離が近い傾向にあります。そのため、本人がエゴサーチをして自分のBL小説などを発見してしまう「事故」のリスクが高いのです。

P禁は、法的リスク以上に「推しを傷つけたくない」「嫌われたくない」という倫理観によって支えられています。自分たちの妄想の世界を守るための、精神的な防壁の役割を果たしているのです。

鉄の掟を守るための「隠れる技術」とルール

二大禁は精神論だけでは成立しません。ウェブサイトの仕組みや運用ルールといった、物理的な「隠れる技術」によって維持されています。

検索避け(Search Yoke)|一般人の目に触れさせない

検索避けとは、GoogleやYahoo!などの検索エンジンに自分のサイトを表示させないための技術です。ナマモノを扱うサイトにおいて、この処置は必須のマナーとされています。

メタタグによる技術的な遮断

サイト管理者はHTMLのヘッダー部分に特殊な記述を行います。具体的には「noindex, nofollow」というタグを埋め込むことで、検索ロボットに対して「このページを登録するな」と命令するのです。

これにより、一般人がタレント名で検索しても、そのサイトは検索結果に出てこなくなります。技術的にサイトを「透明化」することで、意図しない訪問者を物理的に遮断しています。

隠語と伏せ字による表記の工夫

検索ロボットやすり抜けを防ぐため、文章内の表記自体も暗号化されます。グループ名や個人名をそのまま書くことはタブーとされているのです。

J禁・P禁における隠語の例は以下の通りです。

  • 気象系:名前に天候が含まれるグループ
  • 数字:名前に数字が含まれるグループ
  • :L’Arc〜en〜Cielなどのバンド名の和訳
  • 絵文字:タレントのイメージカラーや動物

これらの隠語は、部外者を排除するための合言葉としての機能も持っています。文脈を共有しているファンだけが解読できる文章を構築することで、秘密のコミュニティを守っているのです。

パスワードと階層構造|選別される共犯者

サイトへの入り口には、さらに厳重な関所が設けられています。ここでは、ファンとしての知識と愛が試されることになります。

ファンにしか解けない謎解き

作品を閲覧するためには、複雑なパスワードを入力しなければなりません。「デビューシングルの発売日」「リーダーの愛犬の名前」「コンサートタイトルの特定の文字」などが求められます。

これは単なる認証ではありません。「通りすがりの冷やかし」や「アンチ」を排除し、秘密を共有できる「共犯者」だけを選別する儀式なのです。

サイト内の「表」と「地下」の使い分け

ナマモノ界隈には、リスクに応じた階層構造が存在します。ファンは自分が今どの階層にいるのかを常に意識しなければなりません。

階層特徴二大禁の適用
表(Omote)公式サイト、一般ブログ適用外(健全な応援)
半ナマ検索避けサイト、伏せ字SNSJ禁・P禁の入り口
地下(Chika)パスワード制、鍵付き完全な閉鎖空間

表の世界で地下の話をすることは、最も重いマナー違反とされます。この厳格な使い分けこそが、長年にわたり界隈を存続させてきた知恵と言えるでしょう。

法的リスクと現代における変容

二大禁は、日本の法制度やテクノロジーの進化と密接に関わっています。ここでは、法的側面とSNS時代における変化について解説します。

著作権法と人格権|なぜ「黙認」が必要なのか

実在の人物を扱う以上、著作権だけでなく「人格権」や「肖像権」の問題は避けられません。特に性的な描写や事実と異なる性格付けは、名誉毀損やパブリシティ権の侵害にあたるリスクがあります。

それでも多くの活動が続いているのは、権利者側による「黙認」があるからです。「小規模で非営利、かつ目立たない場所ならば、あえて法的措置は取らない」という暗黙の合意が存在しています。

J禁・P禁は、この黙認を引き出し続けるためのファン側の誠意の表明です。「私たちは公式の利益を損なわず、一般人の目には触れさせません」という無言の嘆願書であると言えます。

SNSとAIの台頭による境界線の崩壊

スマートフォンの普及は、かつての「隠れる文化」を根本から揺るがしています。誰もが気軽に発信できる環境は、ナマモノ界隈にとって脅威となっています。

Twitter(X)とTikTokがもたらした脅威

Twitterなどの拡散型SNSは、ナマモノ文化とは相性が悪いツールです。伏せ字を使っていても、検索アルゴリズムの進化によって容易に見つかってしまう現状があります。

さらにTikTokでは、ナマモノ作品をBGMに合わせてスライドショーで流すユーザーが急増しました。Z世代にとっては「推しの布教」ですが、古参ファンにとっては「全世界への禁忌のバラ撒き」に他なりません。

「見てほしい」という承認欲求と、「隠れるべき」という美学の対立が起きています。世代間の価値観の違いにより、これまでのルールが通用しなくなっているのです。

生成AIという新たなリスク

ChatGPTや画像生成AIの登場は、新たな倫理的問題を突きつけています。実在のタレント名を入力して小説や画像を生成する行為は、極めて高いリスクを孕んでいます。

AIによる生成物は人間が描くよりもリアルです。それゆえに、本人の名誉を傷つける「ディープフェイク」として扱われる危険性があります。

AI時代において、J禁・P禁の「一般人の目に触れさせない」という理念は再評価されるべきでしょう。それは法的なトラブルを防ぐための、最後の防波堤になり得るからです。

まとめ|愛するがゆえの「隠れる美学」

ここまで、J禁・P禁の歴史と構造、そして現代における課題について解説してきました。この二つの規範は、外部からの圧力に対する恐怖から生まれたものです。

しかし同時に、ファンコミュニティが自らを守るための高度な自治システムでもありました。検索避けやパスワードといった面倒な手順は、すべて「推し」を社会的なリスクから守るための配慮です。

インターネットが透明化し、あらゆる情報が可視化される現代では、この「隠れる文化」は時代遅れに見えるかもしれません。それでも、実在の人間を愛し、その関係性を夢想するファンがいる限り、この精神は形を変えて生き続けるでしょう。

J禁・P禁とは、ファンが加害者にならないための良心そのものなのです。この文化の本質を理解し、適切な距離感で楽しむことが、推し活を長く続ける秘訣と言えます。

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